2016年5月18日水曜日

もんじゅ:日本だけが高速増殖炉を手放そうとしない理由

<小出裕章さんに聞く>

高速増殖炉を世界で日本だけが

手放そうとしない理由1 米露英仏は撤退

ラジオフォーラムの収録で語る小出裕章さん
ラジオフォーラムの収録で語る小出裕章さん
原子力規制委員会は15年末、高速増殖炉「もんじゅ」の運営主体を変更するよう文部科学省に勧告した。多くの国はすでに、原子炉のエネルギー源であるウランを増殖させるための高速増殖炉の建設を断念しているのが現状だ。この問題について、元京都大学原子炉実験所・助教の小出裕章さんに聞いた。(ラジオフォーラム)

◆日本だけが手放そうとしない理由

ラジオフォーラム(以下R):昨年11月に、原子力規制委員会が、福井県敦賀市にある高速増殖炉もんじゅの運営主体を日本原子力研究開発機構から変えなさいというふうに、所管する文部科学省に勧告を出したということなのですが、この問題をどうお考えですか。
小出:はい、あまりにも遅すぎたと思います。本当だったらもっと前にこのような勧告を出さなければいけなかったはずだと私は思います。ようやくにしても、出たこと自体はどちらかと言えばいいことだとは思いますけれども、遅すぎたと私は思います。
:こういう勧告を出したことは、今までにあったのですか。
小出:ありません。もともと原子炉というのは設置許可というものを与えるわけですけれども、与えた許可を取り消すという条文が法律にないのです。本当ならば、許可を与えたけれども、この原子炉はダメだからといって取り消すというのが一番真っ当なやり方だと思うのですが、そのような法律的な裏付けがありませんので、仕方がなくて勧告というようなやり方をとったわけです。
:なるほど。少し技術的、科学的なことをお伺いしますが、実は根本的な問題がいくつかあるそうですね….
小出:はい、たくさんあります。もんじゅというのは、高速増殖炉という名前の、現在までは動いていないタイプの原子炉の、そのまた実験的な原子炉です。「高速」という言葉は、高速中性子という、現在の原子力発電所で利用している中性子とは少し違う、スピードの速い中性子を利用しますという意味の高速です。「増殖」というのは、燃えたプルトニウム以上に、もっと多くのプルトニウムが生み出されるという意味で、まさに夢のような話の原子炉なのです。
なぜ、こんな原子炉を造らなければならないかと言うと、現在の原子力発電所で利用しているウランというものは、質量数235というウランを燃やせるだけなのです。ただし、ウラン全体の中で質量数235のウランはわずか数パーセントしかありませんので、現在のような原子力発電をやっている限りは、地球上のウランは簡単に枯渇してしまうということがもう昔からわかっているのです。
ウラン全体の99.3パーセントを質量数238のウランが占めているのですが、それは現在の原子力発電所の原子炉では燃やすことができないのです。それをプルトニウムという物質に変えて、高速増殖炉で燃やすことができるのであれば、原子力の資源の量が60倍に増えると原子力を推進してきた人たちは言ってきました。
仮にそれができたとしても、ようやく化石燃料に匹敵する程度にしかなりませんが、それでも原子力の資源が数十倍には増えるという期待の下で高速増殖炉というものを開発しようということになったのです。
高速増殖炉が開発できなければ、原子力なんていうものは簡単に資源がなくなってしまうということは、原子力開発の一番初めからわかっていたことでした。米国にしてもロシアにしてもイギリスにしてもフランスにしても、何としても高速増殖炉を造りたいと思って開発を始めたのですが、あまりにも難しくて、全ての国が撤退してしまったという原子炉なのです。
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原子力規制委員会は15年末、高速増殖炉「もんじゅ」の運営主体を変更するよう文部科学省に勧告した。多くの国はすでに、原子炉のエネルギー源であるウランを増殖させるための高速増殖炉の建設を断念しているのが現状だ。この問題について、元京都大学原子炉実験所・助教の小出裕章さんに聞いた。連載その2です。(ラジオフォーラム)
小出:未だに高速増殖炉にしがみついているのは日本だけです。中国などの国がやるという話はありますけれども、長い間やり続けてきて、未だに諦めもしないのは日本だけになってしまっています。
:特に、高速増殖炉の冷却剤に使われる液体ナトリウムというのは非常に管理が難しいそうですね。
小出:そうです。ナトリウムというのは、通常の温度ですと銀白色をした固体なのですが、熱をかけていきますと液体になります。それをぐるぐると原子炉の中を回して、炉心を冷却しようという技術なのです。
けれども、ナトリウムというのは水に触れると爆発してしまうのです。空気中に出しておくと、今度は発火して火事になるという厄介な物質でして、例えば大学の研究室、実験室で使う時には、1グラム、あるいはそれ以下のものを使うとなると、かなり注意を払ってやらなければいけないのですが、もんじゅという原子炉では1000トンものナトリウムを液体にして、ぐるぐると原子炉の中を回すというような、途方もない危険を抱えたものなのです。
:このままもんじゅは廃炉ということになっていくでしょうか。
小出:難しいご質問ですけれども、規制委員会が今まで通り、日本原子力研究開発機構に任せてはいけないと、別の組織に任せるしかないという勧告を出したわけです。そうなりますと、文部科学省としては別の研究組織というのをどこからか探してこなければいけないのです。
:どこかにもんじゅを管理する能力を持った組織があるのですか….
小出:そんな組織はないと思います。日本原子力研究開発機構というのは、もともとは日本原子力研究所と動力炉核燃料開発事業団の2頭立ての馬車でこれまで日本の原子力を進めてきたのですが、その2頭立ての馬車のうち、動力炉核燃料開発事業団という組織がもんじゅを運営してきたのです。それがもう全くダメな組織であったがために、初め別々だったものが統合させられて今、日本原子力研究開発機構になったわけです。けれども、これもまたダメだったとなると、恐らくもう他には担える組織が日本にはないという状態だと私は思います。
:では、廃炉にするしかないということですね。
小出:私自身はまた別の力学というのがあると思っています。もんじゅは最後には生き延びると思っています。なぜかと言うと、原子炉というのはもともと核兵器の材料であるプルトニウムを造るための道具だったのですけれども、もんじゅという原子炉を動かすことができると、核分裂性のプルトニウムの割合が98%という超優秀な原爆材料が自動的に手に入るという、そういう原子炉だからです。
それを目指してやってきた人たちというのは、私は必ずいると思います。もんじゅを何としても生き延びさせるために、なにがしかの方策をまた考え出してくるはずだと思います。
http://www.asiapress.org/apn/author/japan/koide-hiroaki-43076/

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