「ホウシャケイ、ホウシャケイ、ホウシャケイ」。原発での仕事について尋ねると、一人が繰り返した。聞き返しても、放射能のことを指すのか、放射線なのか、線量計なのか、はっきりしない。「日本人もたくさん働いている。だから大丈夫と思う」。グエンさんが言葉をつけ加えた。
東電によると、6人が働く現場は放射線管理区域に入らず、マスクやタイベックスーツ(防護服)は不要。原発敷地内の作業であっても放射線防護教育は行われず、法律上被ばく線量を管理する必要もないという。近くのモニタリングポストの数値はここ数カ月、毎時0.8~0.9マイクロシーベルトで推移している。
外国人たちは普通の作業着で働いているものの、線量計は身につけていた。だが、自分たちがどのくらい被ばくしているか、その数値は把握していなかった。
外国人技能実習制度は、途上国の人たちが日本で学んだ技術を母国で生かせるよう「人づくり」に協力する国際貢献が目的とされている。
彼らの経験は母国で生かせるだろうか。
確かにベトナムにも原発の建設計画が存在した。インフラ輸出を成長戦略に掲げる日本などが建設を受注して、2028年にも稼働する予定だった。しかし、ベトナム政府は16年11月、資金不足に加え、福島第1原発事故による住民の反発の高まりを受けて、建設中止を決めた。
外国人建設就労者の2人は外国人建設就労者受入事業によって昨年、再来日した。日本政府は東京五輪・パラリンピックに向けた建設需要の増大を見込み、「大会の成功に万全を期する」目的で、15年4月にこの事業をスタート。技能実習を終了した外国人を対象として、さらに2~3年、日本で働く資格を与えている。
6人はベトナムから来日する際、渡航費などで日本円にして約120万~150万円の借金を背負ってきた。実習生は月10万円ほどの手取りから、借金を返し、家族に仕送りをしなければならない。建設就労者なら給料が日本人並みにアップする。
台所に立つ外国人たちに視線を向けた社長は「現場でも仕事がよくできると評判で、本当に助かっているよ」と話した。だが、「(実習生として)最初の3年で借金を返して、本当に稼げるようになるのは(建設就労者として働くようになる)4年目からだよな」ともつけ加えた。
この会社の従業員は彼ら6人と日本人3人。約30年前の会社設立時は20代の日本人だけで20人以上いたが、今では外国人が中心だ。「職人をイチから育てているのはうちみたいな末端の会社。でも今、日本人の若いのを育てるのなんて難しいですよ。うちも何人辞めていったか、数え切れない。春に入っても夏の現場を経験したら、まず辞めちゃうからね。でも外国人は耐えるんだよ。莫大(ばくだい)な借金をして日本に来ているから、3年間は帰れないし、耐えるしかないんだ」。社長は言った。
建設業界はバブル崩壊後に常態化した不況と公共事業削減の流れの中、縮小の一途をたどってきた。それが、東日本大震災の復興事業に始まり、東京五輪・パラリンピックに向けた施設整備や大規模再開発事業、さらに27年開業予定のリニア中央新幹線建設と続き、大手ゼネコンは最高益を更新している。
その裏側で現場の人手不足を補っているのが外国人だ。建設業就業者はピークだった約20年前から3割減って498万人(17年)。55歳以上が3割を占める一方、20代以下は1割まで落ち込み、高齢化が進んでいる。そんな中、17年に建設分野で働いた外国人は5年前の4倍超の約5.5万人に膨らんだ。そのうち技能実習生が3.7万人を占める。