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「知らされずに除染従事」
ベトナム人技能実習生、失意の帰国
鉄筋施工・組み立ての技術を学ぶ外国人技能実習生として3年半前に来日したベトナム人のホンさん(仮名・35)は、約1年半にわたって福島第1原発の事故に伴う除染作業に従事させられていた。その後、技能実習生向けシェルターに避難していたが、先月になって「これ以上日本にいても技術は学べない」と失意の中で帰国した。「技能実習の名の下に安価な労働力として搾取された」と憤るホンさんの思いを聞いた。【写真映像報道センター・丹治重人】
「科学、経済、交通機関も企業サービスも良い、きれいな国」――。日本に憧れを抱いていたホンさんはベトナムの派遣会社で約3カ月、日本語を学んだ後の2015年7月に来日した。この派遣会社と日本側の管理団体に計約110万円を支払ったという。「ベトナムの平均年収は40万~60万円なのでとても高額。ほとんど銀行から借金して払った」。また、ホンさんにはベトナムで暮らす前妻の元に2人の子どもがおり、その生活費も工面したいと思っていた。「とにかく専門技術を身に着けて帰ろう」。そんな強い思いも、来日して半年もたたないうちに打ち砕かれた。
ホンさんが福島県郡山市の建設関連会社に行って最初にさせられたのは、古い家の解体や砕石の運搬作業。契約書面に「業務内容は鉄筋施工」と書いてあったにもかかわらず、明らかに違う単純労働ばかりだった。「重い、汚い、危ない仕事。解体に使うドリルの使い方も教えてもらえなかった」とホンさんは振り返る。
その後、同市内と同県本宮市内で除染作業に従事。しかし、土を取り除いて袋に入れ、新しい土を敷き直す作業が「除染」であることは会社側から一切、知らされていなかった。「意味も分からず仕事をしていた。放射能を帯びた土であることは18年春、インターネット上で『技能実習生が除染をさせられている』という記事を見て初めて知った」というホンさん。健康被害への不安が募り、支援者の助けを得て郡山市内の技能実習生向けシェルターに駆け込んだ。
シェルターには他にも実習先の企業から不当な扱いを受けた外国人たちが避難してきていた。朝昼晩の食事は用意されるが、職はなく健康保険も切れたままの状態でシェルターの掃除や日本語の勉強、ランニングなどをして過ごす不安定な日々。支援者の力を借りて未払い賃金の要求や新たな受け入れ先探しなどを続けた。勉強のかいもあり最大2年間実習を延長できる、第3号技能実習の試験に合格したが「これ以上日本にいても技術は学べない」とついに帰国を決めた。
シェルターの責任者、平文敏さん(63)は「多くの技能実習生たちが安価な労働力として酷使されている。借金は多額で生活は苦しい。なんとか彼らを支えていきたい」と話す。今月下旬には新たに特定非営利活動法人を申請し、技能実習生たちを支える活動を続けていく予定だ。
ホンさんは帰国前、絞り出すようにこう語った。「この技能実習制度は本当のものではない。私の友達も日本では単純労働をしただけで、専門技術を学んだ人はほとんどいない。制度を見直してほしい」
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ホンさんが働いていた郡山市内の建設関連会社に対しては、法務省が昨年10月、「事前の説明や同意がないまま除染作業をさせていた」などとして実習生の受け入れ停止3年の処分を下している。
https://mainichi.jp/articles/20190218/k00/00m/040/118000c?fbclid=IwAR1WntMmMwsNwfquJ77WZP8Ue2q58QDsS-3IBIJTMbAYoarB2VGsKXZMZJk
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