2016年11月21日月曜日

ブラジル政府、被ばくリスクを伴う作業の求人広告、自粛要請


外国人作業員の違法な偽装請負が疑われる福島第1原発の汚染水貯蔵タンク建設現場=2014年5月ごろ撮影(関係者提供)

日系人向けメディアに 被ばくリスク懸念

 東京電力福島第1原発の廃炉作業にブラジル国籍の日系人ら7人が従事していた問題で、ブラジルの在日大使館や在東京総領事館が原発事故後、日系人向けメディアに、被ばくのリスクを伴う作業の求人広告を安易に載せないよう求めていることが分かった。同国は自国民を守る立場から、リスクをきちんと認識した上で働ける現場か懸念している。【関谷俊介】
 この問題では、第1原発で2014年3~5月ごろ、日系ブラジル人らが法令の定める事前の放射線防護教育も十分に受けず、汚染水貯蔵タンクを建設する溶接作業を行っていたことが、関係者への毎日新聞の取材で判明。安全管理責任をあいまいにする違法な偽装請負の疑いがある。
 在日ブラジル大使館が問題視した求人広告は、原発事故翌年の12年春、日本に居住する日系ブラジル人向けのフリーペーパー(ポルトガル語)に掲載された。作業は原発20キロ圏内のがれき処理で、日当3万円。発行人によると08年のリーマン・ショックの影響で日系人向けの仕事が減っており、掲載から3日間で100人前後の応募があった。
 一方、求人広告に対し日系ブラジル人たちの間で抗議の声が広がり、在日ブラジル大使館がフリーペーパー発行会社に掲載自粛を要請する事態となった。広告を出した大阪市の人材派遣会社によると、騒ぎが大きくなる前に採用を見送り、その後は外国人を募集していないという。
 他のフリーペーパーでも原発事故関連の求人広告が散見されるとして、在東京総領事館は15年春、改めて「労働者の健康に危険がある福島第1原発周辺の求人を控えるよう求める」などとホームページ上で発信した。
 毎日新聞の取材にマルコ・ファラーニ総領事は、広告掲載自粛要請について「放射線の問題があり(第1原発で)働かない方がいいと思うが、働きたいという人を我々は止められない。報酬がいいからというのではなく、働く前に放射線の健康へのリスクをきちんと学んでおくことが大切だ。メディアは募集広告を載せる前にその点を考えてほしい」と説明。日系ブラジル人らが廃炉作業に従事していたことは「知らなかった」とした。
 日系ブラジル人の労働問題に詳しいアンジェロ・イシ武蔵大教授(国際社会学)は日系3世で、求人広告に抗議した一人だ。「放射線の健康への影響を深く考えないまま掲載したことを重く見た」と振り返る。偽装請負が疑われる労働実態については「被ばくや事故が起きなかったとしても結果オーライでは済まない。事前に外国人にも分かるように情報提供し、リスクを理解させる必要がある」と指摘する。

日系ブラジル人ら7人の労働実態 東電、元請け任せ

 福島第1原発での日系ブラジル人ら7人の労働実態は実際、どうだったのか。
 偽装請負の可能性が判明した時点で毎日新聞の取材に、東京電力は個別の事案への言及を避け、「全作業員対象のアンケートなどでも特段の問題は確認していない」と回答していた。このアンケートは定期的に実施されており、調べたところ、2013年は10~11月、14年は8~9月に行われた。7人が作業していた時期(14年3~5月ごろ)はそのはざまで、7人はこの時期、アンケートに答えていない。
 東電は17日、毎日新聞の取材に「元請け業者から偽装請負はなかったと報告を受けた。しかし(東電が)下請け業者と直接の契約関係にないため、詳しい中身は答えられない」と説明した。
 一方、元請け業者は東電への報告内容について、取材に「17日中に回答できない」とした。労働実態について現時点で明確な説明はなく、東電は主体的に説明する姿勢に欠け、業者任せにしている実態が浮かんだ。【関谷俊介】
 17日、東京電力広報室と毎日新聞のやり取りは以下の通り。
 --7人の労働実態の調査結果は。
 元請け業者から偽装請負はなかったと報告を受けた。
 --外国人はどのような労働形態で働いていたのか。
 下請け業者と直接の契約関係にないため、詳しい中身は答えられない。
 --報告を受けて改善すべき点はあるか。
 これまでも実施してきた全作業員を対象としたアンケートなどを通じて改善すべき点があれば取り組む。
 --アンケートは日本語だが、日本語が読めない外国人にはどう対応するのか。
 元請け業者や雇用先が日本語がわからない外国人にも内容がわかるように対処していると聞いている。

http://mainichi.jp/articles/20161118/k00/00m/040/175000c

毎日新聞

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